レーザー加工は、集束された高エネルギーのレーザービームを金属素材に照射し、その熱エネルギーによって素材を溶融・蒸発させる加工方法です。この技術は非接触加工であるため、従来の機械的な切断方法と比較して多くの利点があります。
レーザー切断の仕組みは、極めて細いレーザー光線を高出力で照射することで、金属内部に局所的な高温領域を生成します。この熱によって金属が瞬時に溶融・蒸発し、切断が行われます。この過程では、アシストガス(酸素や窒素など)を使用して、溶融金属を吹き飛ばしたり、酸化反応を促進したりします。
レーザー加工機には主に以下の種類があります。
レーザー加工では、出力パワーや焦点距離、送り速度などのパラメータを調整することで、様々な厚さや種類の金属に対応できます。これにより、0.1mm程度の薄板から10mm以上の厚板まで、幅広い金属材料の精密な切断が可能になります。
レーザー加工は様々な金属素材に対応可能ですが、それぞれの素材によって加工特性が異なります。主な金属素材とその特徴を見ていきましょう。
ステンレス鋼
ステンレス鋼はレーザー加工に最も適した素材の一つです。耐食性に優れ、美しい切断面が得られます。食品関連機器や建築金物、医療機器などの分野で広く活用されています。ファイバーレーザーを使用することで、鏡面仕上げのステンレスでも反射による問題が少なく加工できます。
軟鋼(鉄)
一般的な鉄鋼材料は、コストパフォーマンスに優れており、機械部品や建築金物、看板など多岐にわたる用途で使用されています。酸素アシストガスを使用することで、燃焼反応を促進し、効率的な切断が可能です。
アルミニウム
軽量で加工性に優れるアルミニウムは、自動車部品や建築資材として人気があります。熱伝導率が高いため、レーザー加工時には高出力が必要となります。また、反射率も高いため、ファイバーレーザーなど適切なレーザー源の選択が重要です。
銅・真鍮
高い導電性と熱伝導性を持つ銅や真鍮は、電気自動車や電子機器の部品として重要です。これらの金属はレーザー光の反射率が非常に高いため、高出力のファイバーレーザーが必要です。最近の技術進歩により、これらの難加工材料でも安定した切断が可能になっています。
チタン
軽量かつ高強度で耐食性に優れるチタンは、航空宇宙産業や医療機器、スポーツ用品などの高付加価値製品に使用されています。レーザー加工時には酸化を防ぐため、アルゴンなどの不活性ガスを使用することが一般的です。
素材選定の際には、以下の点を考慮することが重要です。
適切な素材選択と加工条件の最適化により、高品質なレーザー加工製品を実現することができます。
レーザー加工は切断だけでなく、金属表面へのマーキングや彫刻にも優れた技術です。これらの技術は製品の識別、トレーサビリティ、装飾などに広く活用されています。
マーキング方法の種類
塗装やアルマイト、メッキなどの表面層を除去して下地を露出させる方法です。塗装されたアルミニウムや陽極酸化処理されたアルマイト製品に効果的です。
金属表面を酸化させて変色を起こす方法で、ステンレスやチタンなどに適しています。表面に物理的な凹凸を作らないため、耐食性を損なわず、滑らかな表面を維持できます。
レーザーの高エネルギーで金属表面を溶融・蒸発させ、凹みを作る方法です。より耐久性の高い印字が必要な場合に適しています。
マーキング・彫刻が可能な主な金属
マーキングの応用分野
レーザーマーキングの大きな利点は、インクや薬品を使用しないため環境に優しく、消えない永久的なマーキングが可能な点です。また、複雑なロゴやグラデーションなども高精細に表現できます。
最新のレーザーマーキング技術では、パルス幅や周波数を制御することで、同じ金属表面に異なる色調のマーキングを施すことも可能になっています。例えば、ステンレス表面に黒色から金色、青色まで様々な色調を表現できる技術が開発されています。
レーザー溶接は、従来の溶接方法と比較して高精度で熱影響が少なく、高速加工が可能な技術として注目されています。特に薄板金属の接合や、精密部品の製造において重要な役割を果たしています。
レーザー溶接の基本原理
レーザー溶接は、集束されたレーザービームを熱源として金属を局所的に溶融させ、冷却・凝固させることで接合を行います。レーザー溶接には主に以下の2つの方式があります。
比較的低いパワー密度で、材料表面から熱伝導によって溶融池を形成する方式です。溶込みは浅いですが、美しい溶接ビードが得られます。
高いパワー密度により、材料が瞬時に蒸発してキーホール(小さな穴)を形成し、深い溶込みを実現する方式です。高速溶接や厚板の溶接に適しています。
レーザー溶接の主な特長
最新のレーザー溶接技術
近年、レーザー溶接技術は急速に進化しています。特に注目されている技術として、以下のようなものがあります。
高出力半導体レーザーを用いて、ビームを複数のスポットに分岐させる技術です。電気メッキ鋼板などの溶接において、メッキ層を事前に除去してから本溶接を行うことで、飛散を防止し高品質な溶接が可能になります。
スキャナーミラーを用いて高速でレーザービームを移動させる技術で、自動車ボディなどの大型部品の高速溶接に活用されています。
レーザーとアークやMIG溶接などの従来技術を組み合わせることで、それぞれの利点を活かした溶接が可能になります。
チタン合金やニッケル基超合金など、従来の溶接では困難だった高機能材料の溶接が可能になっています。
産業応用例
レーザー溶接技術の進化により、これまで困難とされていた接合が可能になり、製品設計の自由度が大幅に向上しています。特に電気自動車やスマートデバイスなど、軽量化と高強度が求められる製品において、レーザー溶接の重要性はますます高まっています。
レーザー改質加工は、金属の表面特性を向上させる革新的な技術です。この技術では、レーザービームを用いて金属表面を加熱し、その性質を変化させることで、耐摩耗性、耐腐食性、硬度などの特性を向上させます。
主なレーザー改質加工技術
レーザービームで金属表面を急速に加熱した後、自己冷却により焼入れを行う技術です。従来の高周波焼入れと比較して、局所的な処理が可能で、熱による変形が少ないという利点があります。自動車のギアやシャフト、工作機械の摺動部などに適用されています。
金属を加熱して徐々に冷却することで、内部応力を緩和し、延性や靭性を向上させる処理です。精密部品の製造工程で生じた残留応力の除去や、加工硬化した部分の軟化などに利用されます。
金属表面を瞬間的に溶融させ、急速冷却することで非晶質(アモルファス)層を形成する技術です。これにより表面の平滑性が向上し、耐食性や耐摩耗性が大幅に改善されます。
基材表面に粉末やワイヤ状の添加材料を供給しながらレーザーで溶融させ、新たな合金層を形成する技術です。耐摩耗性や耐食性に優れた材料を表面に形成できるため、部品の寿命延長に効果的です。
レーザー改質加工のメリット
産業応用例
最新の研究では、レーザー改質と人工知能(AI)を組み合わせた技術開発も進んでいます。材料の特性や処理条件をAIが分析し、最適なレーザーパラメータを自動的に設定することで、さらに高品質な表面改質が可能になっています。
また、異種金属の接合界面にレーザー改質を施すことで、従来は困難だった異種材料の接合強度を向上させる技術も開発されています。これにより、軽量化と高強度化を両立した複合材料部品の製造が可能になっています。