アンダーカットとは、切削加工において一方向から見て陰になる部分の形状を指します。元々は金型製作でよく使われる用語で、型から成型品を外そうとしたときに引っかかって抜けない形状を意味していました。切削加工の文脈では、工具が直接アプローチできない領域のことを指します。
アンダーカット形状が問題となる理由は、切削加工の基本原理に起因します。切削加工では回転する刃物でワークを削りますが、この刃物はホルダーに取り付けられ、さらに主軸と呼ばれる回転軸に接続されています。そのため、主軸から見て壁の裏側に隠れている部分を削ることができません。
具体的な例としては:
これらの形状は通常の加工方法では刃物が届かないため、特別な対策が必要となります。アンダーカット形状を持つ部品の設計段階では、この加工の難しさを考慮する必要があります。
アンダーカット形状には大きく分けて「内部アンダーカット」と「外部アンダーカット」の2種類があります。それぞれの特徴と裏側切削が必要となるケースを見ていきましょう。
内部アンダーカット
素材の内側に機能が埋め込まれた形状で、外部からは見えにくい特徴を持ちます。例えば:
外部アンダーカット
外部表面の一部を切り取る形状で、外側から見える表面に施されます。例えば:
特殊なアンダーカット形状としては以下のようなものがあります:
約45度から60度の鋭角で切断され、強力な結合を可能にします。航空宇宙産業や金属加工産業で多用されています。
ワークピースの背面に穴を開ける形状で、表面からは直接アクセスできない場所に適用されます。
フランジ面の裏側に設けられたザグリ形状で、キャップボルトの頭を埋めるために使用されますが、加工が非常に困難です。
これらの形状は通常の加工方法では実現が難しく、裏側切削のための特殊な技術や工夫が必要となります。
アンダーカット形状の裏側切削を実現するためには、様々な加工技術が用いられます。それぞれの技術の特徴と適用例を見ていきましょう。
1. 5軸加工技術
5軸加工機は、従来の3軸(X、Y、Z)に加えて回転軸と傾斜軸を備えており、アンダーカット部分へのアプローチを可能にします。
ワークを回転・傾斜させて固定した後に3軸加工を行います。一度の段取りで様々な箇所を加工でき、刃長の短い刃物を使用できるため、加工時間の短縮やビビり軽減による磨き時間の短縮などのメリットがあります。
3軸と回転軸・傾斜軸の5軸を同時に動かすことで、より複雑な曲面加工を精度よく仕上げることができます。加工角度の誤差を最小限に抑え、つなぎ目の少ない滑らかな加工を実現します。
2. 特殊工具の使用
T字型の溝を加工するための専用工具で、通常のエンドミルではアプローチできないアンダーカット形状の加工に適しています。
主軸を90°傾けて回転させることができる装置で、通常の工具では届かない場所へのアプローチを可能にします。
フランジ面の裏側にザグリを形成するための特殊工具です。
3. 放電加工
形彫放電加工は、電極と工作物の間に発生する放電現象を利用して加工を行う方法で、複雑なアンダーカット形状の加工に適しています。特に、切削加工では実現が困難な裏ザグリなどの形状に有効です。
4. 複合加工法
複数の加工方法を組み合わせることで、アンダーカット形状の加工を実現する方法もあります。例えば:
これらの技術を適切に選択・組み合わせることで、従来は加工が困難だったアンダーカット形状の裏側切削が可能になります。
アンダーカット形状は加工が困難であるため、可能であれば設計段階で回避することが望ましいです。ここでは、アンダーカット形状を回避するための設計変更アプローチについて解説します。
1. 貫通形状への変更
アンダーカット形状をそのまま外側まで貫通させることで、外側からエンドミルで加工できるようになります。例えば:
2. 形状の簡略化
複雑なアンダーカット形状を、加工しやすい形状に簡略化する方法です。
3. 工具アプローチのための工夫
アンダーカット形状を変更せずに加工するための工夫として:
4. 部品分割アプローチ
一つの部品として加工が困難な場合は、複数の部品に分割して後で組み立てる方法も有効です。
設計変更を行う際は、製品の機能や強度に影響がないか十分に検討する必要があります。また、製造コストや組立工程の増加なども考慮して総合的に判断することが重要です。
アンダーカット形状の加工技術は日々進化しており、従来は不可能だった複雑な形状も実現可能になってきています。ここでは、最新の技術動向と将来展望について紹介します。
最新の加工技術
切削加工と積層造形(3Dプリンティング)を組み合わせたハイブリッド加工機が登場しています。これにより、アンダーカット部分を積層造形で形成し、その他の部分を高精度な切削加工で仕上げるという新しいアプローチが可能になっています。
人工知能を活用して最適な工具経路を自動生成する技術が発展しています。これにより、複雑なアンダーカット形状に対しても効率的な加工が可能になりつつあります。
工具に超音波振動を加えることで、従来の切削では困難だった形状の加工を可能にする技術です。特に硬脆材料のアンダーカット加工に有効です。
従来の5軸加工機よりも自由度の高いロボットアームを用いた加工機が開発されています。これにより、より複雑なアンダーカット形状へのアプローチが可能になっています。
将来展望
実際の加工前に仮想空間で加工シミュレーションを行い、問題点を事前に発見・解決する「デジタルツイン」技術の活用が進んでいます。これにより、アンダーカット形状の加工における試行錯誤のコストと時間を大幅に削減できるようになるでしょう。
新しい材料や加工法の開発により、従来のアンダーカット加工の概念が変わる可能性があります。例えば、特定の条件下で形状が変化する材料を用いることで、加工後に所望のアンダーカット形状を得るといった手法が研究されています。
設計段階から製造方法を考慮したDfM(Design for Manufacturing)の概念がさらに進化し、アンダーカット形状を効率的に加工するための設計手法が標準化されていくと予想されます。
アンダーカット加工技術の進化は、部品点数の削減や組立工程の簡略化につながり、製造業における環境負荷の低減にも貢献する可能性があります。
これらの技術進化により、現在は困難とされているアンダーカット形状の加工が、将来的にはより簡単かつ効率的に行えるようになるでしょう。製造業に携わる方々は、これらの技術動向を注視し、適切なタイミングで自社の製造プロセスに取り入れていくことが重要です。
ここでは、実際の製造現場で遭遇する可能性のあるアンダーカット形状の加工事例と、その解決策について具体的に見ていきましょう。
ケース1: フランジ部品の裏ザグリ加工
ある配管部品のフランジ面に裏ザグリを設ける必要があるケースを考えます。
問題点:
フランジが邪魔になり、通常の工具ではザグリ部分にアプローチできません。
解決策:
実際の現場では、部品の大きさや材質、要求精度、生産数量などを考慮して最適な方法を選択します。少量生産であれば特殊工具の使用が、大量生産であれば金型による一体成形が効率的かもしれません。
ケース2: 内部T溝の加工
機械部品の内部にT字型の溝(アンダーカット形状)を設ける必要があるケースです。
問題点:
T字型の横棒部分が典型的なアンダーカット形状となり、通常の加工方法では実現が困難です。
解決策:
この場合、T溝の寸法や要求精度によって最適な方法が異なります。標準的なT溝サイズであれば専用工具が効率的ですが、特殊サイズの場合は5軸加工や部品分割が有効かもしれません。
ケース3: 複雑な内部空洞の加工
医療機器部品などで、内部に複雑な空洞形状を持つケースを考えます。
問題点:
内部空洞の形状が複雑で、通常の切削加工では実現が困難です。
解決策:
このケースでは、従来の切削加工にこだわらず、新しい製造技術を積極的に取り入れることで解決できる可能性があります。特に医療機器のような高付加価値製品では、多少製造コストが上がっても最適な機能を実現する方向で検討することが多いでしょう。
ケース4: 鳩尾継ぎ(ダブテール)形状の加工
木工や金属加工で使用される鳩尾継ぎ(